地球の丸みを把握する理由
水平線の話の続き。
高度を上げていくと、水平線は下に見えるようになってくる。高高度を飛行するパイロットにとっては、これを意識することも大事なことである。
水平=0度と勘違いしがちであるが、図解すると明確であるように0度面は地球の丸みに沿わない。そして「同じ高度を飛ぶ」というのは地球の丸みに沿って(地球の表面からの距離一定で)飛行するということである。水平飛行=0度と思って飛ぶ先を見ていたら、例えば、越えられると思っていた積雲を越えられなかったりする。
では巡航高度を維持しているとして、自機が通るであろう場所は、何度下に見ることになるのか?というと計算で求めることができる。旅客機の場合、大雑把な計算では、5分間で40マイル、10分で80マイル進む。そこから計算すると、高高度では5分先では約0.3°、80マイル先ではその倍の約0.6°下に見ることになる。
「1度未満なんてちょっとだけじゃん!誤差範囲内じゃね?」
と思いがちであるが、この見た目の1度でも意味合いでは大きい。
比較対象として、水平線は何度くらい下に見えるか?
それを求めるには、前回のピタゴラスの定理で使った三角形から、余弦定理を使用して求めることができる。その解答は下表となる。
高度 [feet] | 水平線の俯角 |
---|---|
40000 | 3.54° |
35000 | 3.31° |
30000 | 3.07° |
25000 | 2.80° |
20000 | 2.51° |
15000 | 2.17° |
10000 | 1.77° |
5000 | 1.25° |
機上装備品には、前方にある水蒸気を探知して、主にタービュランス(乱気流)を回避するための機上気象レーダーがある。レーダービームの角度は上下方向に調整することができる。機器によってはAUTOポジションがあり、だいたいいいところを照射してくれるのだが、高高度では下方2度を示している。
正直、勉強不足の時は、「下過ぎ?!」と思ったが、この角度はきちんとメーカーが考えた絶妙の角度なのだ。それが地球の丸みを考慮したものであった。
レーダービームの角度を0度にすると、前遠方へ行くほど自機より高い場所に照射することになる。そして例えば4万フィート巡航中、3.54°に調整すると、ビームは約400km弱前方で地球表面をかすめるように進む。(厳密にはビームに幅があるので、単純化した理屈)水平飛行していて自機が通るであろう場所へ角度を調整するには、前述の角度を把握しておく必要がある。とはいえ、自分が触ったことがある機器は、その調整角度表示が1度単位で小数点以下がない。どれくらい調整したのかわかりにくいことこの上ない。
巡航高度に沿ったアークより下方へ、ある角度でビームを向けると、自機からの前方への距離が大きくなるほど低い高度を指し示すことになる。逆に考えると、地点を固定して考えると、飛行機がその地点へ近づくにつれ、ビームはその地点の低い高度から高い高度へ照射されていくことになる。例えば塔状の雲があったとすると、イメージしやすいだろう、下から上へスキャンされていくことになる。
そのためにAUTOポジションは絶妙で、影響がありそうな高度帯を下から上にスキャンするのに役立つ。夜間や完全に雲の中であっても、水蒸気の動き(=気流)が活発な空域が立体的にどのような形になっているのか?把握することができる。
これも慣れが必要で、画面上は当然、平面だから2Dだ。それをスキャン画像を覚え、頭の中で3Dにしていくのは、高い空間把握能力が要求される。
3Dモニターができればいいのだが。