空と科学とファンタジー

主に飛行機に関する科学について書いています

空間認識能力を高める

パイロットになる前、最初に遊んだフライトゲームはスーパーファミコンパイロットウィングスだ。これは名作である。実際の飛行機を操縦するにあたって、パスコントロールのイメージをすることは非常に有効なのだが、このゲームで培われたと言っていい。

 最近になってやり始めたゲームはこれ!【ACE COMBAT 7 SKIES UNKNOWN】飛行機を操縦できるコンシューマーゲームでは、ラダーコントロールができるのはこれぐらいではないのだろうか?

 データ読み込み時に「シャンデル」の説明が出てきた時には思わずニンマリ。訓練生時代を思い起こした。操縦技術の科目であったこのManeuverは、実はドッグファイトのためのものだったらしい。・・・このことはラインパイロットになってから何年も経ち、先輩機長から聞いて驚いたものだ。 

そして、このゲームの凄いところはVRだ。コックピット環境は座った状態でほとんど体を動かさず、頭や視線を動かすことがメインということで、VRと非常に相性がいい。

リリース予告時にVR対応だということは聞いていて、全編VRで遊べるかと思っていたが、実は違っていた。メニューに「VR」モードがあって本編とは別だ。そこが少し残念だったが、実際に遊んでみると、これで良かったのかのかな、とも思った。なぜなら、一つのミッションが10分前後なのだが、脳みそをぶん回されたような気分になった。

バイオハザード7】が 全編VRでプレイ可能で特にVR酔いはしなかったが、SKIES UNKNOWNの360度空中を駆け巡るのは全然違っていた。

慣れればいいのかもしれないが、バイオハザード7でさえVR酔いが酷い人もいるのだから、コンシューマーゲームだけに、消費者離れしてしまうと元も子もないので、これでいいのだろう。

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地球の丸みを把握する理由

水平線の話の続き。

高度を上げていくと、水平線は下に見えるようになってくる。高高度を飛行するパイロットにとっては、これを意識することも大事なことである。

水平視点解説図

水平=0度と勘違いしがちであるが、図解すると明確であるように0度面は地球の丸みに沿わない。そして「同じ高度を飛ぶ」というのは地球の丸みに沿って(地球の表面からの距離一定で)飛行するということである。水平飛行=0度と思って飛ぶ先を見ていたら、例えば、越えられると思っていた積雲を越えられなかったりする。

では巡航高度を維持しているとして、自機が通るであろう場所は、何度下に見ることになるのか?というと計算で求めることができる。旅客機の場合、大雑把な計算では、5分間で40マイル、10分で80マイル進む。そこから計算すると、高高度では5分先では約0.3°、80マイル先ではその倍の約0.6°下に見ることになる。

「1度未満なんてちょっとだけじゃん!誤差範囲内じゃね?」

と思いがちであるが、この見た目の1度でも意味合いでは大きい。

 

比較対象として、水平線は何度くらい下に見えるか?

それを求めるには、前回のピタゴラスの定理で使った三角形から、余弦定理を使用して求めることができる。その解答は下表となる。

高度 [feet] 水平線の俯角
40000 3.54°
35000 3.31°
30000 3.07°
25000 2.80°
20000 2.51°
15000 2.17°
10000 1.77°
5000 1.25°

機上装備品には、前方にある水蒸気を探知して、主にタービュランス(乱気流)を回避するための機上気象レーダーがある。レーダービームの角度は上下方向に調整することができる。機器によってはAUTOポジションがあり、だいたいいいところを照射してくれるのだが、高高度では下方2度を示している。

正直、勉強不足の時は、「下過ぎ?!」と思ったが、この角度はきちんとメーカーが考えた絶妙の角度なのだ。それが地球の丸みを考慮したものであった。

レーダービームの角度を0度にすると、前遠方へ行くほど自機より高い場所に照射することになる。そして例えば4万フィート巡航中、3.54°に調整すると、ビームは約400km弱前方で地球表面をかすめるように進む。(厳密にはビームに幅があるので、単純化した理屈)水平飛行していて自機が通るであろう場所へ角度を調整するには、前述の角度を把握しておく必要がある。とはいえ、自分が触ったことがある機器は、その調整角度表示が1度単位で小数点以下がない。どれくらい調整したのかわかりにくいことこの上ない。

巡航高度に沿ったアークより下方へ、ある角度でビームを向けると、自機からの前方への距離が大きくなるほど低い高度を指し示すことになる。逆に考えると、地点を固定して考えると、飛行機がその地点へ近づくにつれ、ビームはその地点の低い高度から高い高度へ照射されていくことになる。例えば塔状の雲があったとすると、イメージしやすいだろう、下から上へスキャンされていくことになる。

そのためにAUTOポジションは絶妙で、影響がありそうな高度帯を下から上にスキャンするのに役立つ。夜間や完全に雲の中であっても、水蒸気の動き(=気流)が活発な空域が立体的にどのような形になっているのか?把握することができる。

これも慣れが必要で、画面上は当然、平面だから2Dだ。それをスキャン画像を覚え、頭の中で3Dにしていくのは、高い空間把握能力が要求される。

3Dモニターができればいいのだが。

 

青春ブタ野郎シリーズ 〜水平線までの距離〜

青春ブタ野郎』シリーズ内での登場人物、牧之原翔子が水平線までの距離が意外と近いことに言及する。


 

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人間の視点として1.7mからの水平線までの距離は約5kmということである。

その導き方は、地球の半径から求める。

水平線の図

地球の半径がr=6371km、hが地球表面からの高さ、dが水平線までの距離である。水平線のポイントで隣り合う辺、d, rがなす角は直角なので、ピタゴラスの定理を使用すれば次の式が成り立つ。

 

(h+r)2=d2+r2

 

 これをdについて解くと…

 

d=(h(h+2r))-2

 

より求めることができる。実際には大気の屈折率によりもう少し遠くまで見える。では飛行機から見る水平線はどれくらい遠くまで見えるのか?

 

高高度で約390km

 

東京名古屋間が約350kmなので、それを考えれば高高度でもそれほど遠くを見渡せるものではないと感じるのではないだろうか?

有効桁数

以前、「有効桁数」という話をしたのでそれにちなんでの話。学術的でつまらない話かもしれない。理系の人にはわかると思うが、計算で数値の桁をどこまで扱うか?決めたものである。例えば、前回の記事では

地球の質量を5.972×1024kg

というように整数部分を一桁とし、それ以下の桁は小数点以下、×10の何乗という表記をする。それに倣うと

地球の半径は6.37518×106m

と表記される。0.637518×107mとも表せるが、整数部分に0は使わない。整数部分から含めての桁数が有効桁数である。小数点第2位まで有効とするなら有効桁数3桁となる。足し算引き算はもちろん位を合わせないといけないが、乗算除算をする場合は、×10は何乗だろうが、有効桁数は桁数の少ない方に合わせる。その桁数までしか精度が保証されないのが理由である。

 

機動戦士ガンダムNT

いよいよBlue-ray&DVDが今月に発売になります。

脚本が福井晴敏さんで原作の小説も読みましたが、宇宙空間での物理現象をも描写していて大変面白いです。UCの続きにあたるのでUCを楽しんだ方はオススメです。音楽が澤野弘之、主題歌がLiSAというところも素敵です。

UCシリーズで、特に印象的だったのが、コックピットの進化です。全天モニターになっているので、死角が自分が座っている座席なんですよね。そこをついてモビルスーツ同士の白兵戦が行われるわけですが、その死角を意識して下方から接近戦を仕掛けるという…ここは小説で説明されているんですが、アニメでもしっかりとそれを意識したシーンがあります。

飛行機にもしこの全天モニターがついていたら…と想像してみましたが、あーやっぱり白兵戦するわけじゃないので要らないです(笑) そもそも計器飛行がメインなのであまり外を見ることが少ないです。実際、霧などまったく先を見通せない気象状態でも着陸できる方式がありますが、計器をしっかりとモニターすることに集中します。

どこかの構想で、旅客機のコックピットは何も機首部分にある必要も窓も必要ないとか…あるそうです。操縦が全て自動で行われ、出発や到着経路も全て決まったルートしか飛ばない、となればそれも可能なんでしょうけど。

機械もいくら何重のバックアップをとったとしても100%正常作動するとは限らないので、やっぱり最終的に人間は必要だと思っているので、未来の旅客機のコックピットの形は現在とあまり変わらないのではないかと思います。

 

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高度を上げていくと重力加速度は…?

地上での重力加速度は9.80665m/s2で定義されています。これは万有引力の法則により、地球の質量と物体同士間の距離から導き出すことができます。厳密にいうと地球は完全な球体ではなく赤道付近が膨らんだような形なので、重力加速度も極付近が最も大きく、赤道付近が最も小さくなります。これを求める数式

g=GM/r2

G:万有引力定数 6.674×10-11m3/kg s2

M:地球の質量 5.972×1024kg

r:地球の半径 6371km

から求められるのですが、これらから計算すると重力加速度は9.82となってしまいます。検証のため、地球の質量を固定して逆算すると地球の半径が6375.18kmとすれば9.80665となります。

ここで飛行機が高度を上げていくと地球との距離が大きくなります。厳密にいうと飛行機の高度は気圧高度なので、正確な実距離ではありませんが、10,000フィートごとに重力加速度がどう変化するか検算してみました。

高度[フィート] 地球の中心からの距離 重力加速度
10,000 6378.22km 9.79731
20,000 6381.27km 9.78795
30,000 6384.32km 9.77860
40,000 6387.37km 9.76926

1万フィートごとに0.01ほど減少していきました。

微分を行うことでこのあたりの逓減率を調べてみるとやはり10,000フィートごとに0.009m/s2の減少で間違いなさそうです。

単位系

世界のほとんどの地域の航空機に使われている単位系は、メートルやキログラムなどを使用する国際単位系ではありません。高度はフィート、距離は海里(NM: Nautical Miles)、重さは主にポンドを使用します。

海里は地球の緯度1分(1°の60分の1)であり、航空図はこの目盛りが記されています。地球をどのくらいの速さで進むのか測るのには合理的な単位であるといえます。欧米の道路などで使われている距離マイルと異なり、区別するときに、それぞれ海マイル、陸マイルと呼ばれることもあります。以下のようにその距離も違います。

1NM = 1852m(小数点以下なしに正確)

1mile = 1609.344m

そして飛行機で使用する速度の単位はノット(knot)、(表記:kt、KT(計器速度のときKIASと表記されることがある。))これは1時間に進む海里、つまりNM/hのことです。

空の世界では高さの単位がフィートですが、中国やロシアなどではメートルを使用しています。巡航高度は1000フィート単位(厳密にいうと決まった飛行方式)で、東向きなら奇数、西行きなら偶数といった具合に東西で入れ違いになっています。以前の記事に書いたように、標準大気での気温減率が1000フィートにつき2℃というのは、偶然の一致なのか知りませんが、計算しやすくて助かります。メートルを使用している国での巡航高度は約300m毎(約1000フィート)となっています。

中国やロシアで使用している飛行機の高度計がどうなっているのか気になるところです。比較的新しい飛行機ではフィート表示の横にメートル表示もできるようになってはいますが。

どれくらいのレートで上昇降下しているかを示す計器Vertical Speed Indicator(昇降計)はfpm(feet per minute:フィート/分)です。ちなみに中国での管制では時々、「〜以上の降下率で降下しなさい」という指示が来るのですが、この時はfpmで指示が来ます。